災害時に避難する指定避難所は自治体が開設します。そこに入所するためには一般的に『登録票』や『入所届』などの伝票を作る必要があります。
安否確認システムで応用できるか?
できました。
多用途安否確認システム『AmpiTa』を利用して避難所の入所届を電子化してみました。
上記動画は59秒ですが、速ければ1分以内で入力を終えます。
入力者は1分の労力ですが、管理者はゼロ秒で電子化できていることになります。
AmpiTaの標準機能で一覧表示やファイル出力、グラフ化などができるため、電子化した意義は大きいと考えられます。
入所届管理システム(仮)
入所届の平均値
全国の自治体のウェブサイトなどから入所届に類するもののフォーマットを確認しました。
今回は 『災害の芽を摘む』(saigai.me) のウェブサイトに掲載されている『地域防災計画 データベース 都道府県・市町村一覧』です。
このデータベースは全自治体がリストされており、自治体の公式ウェブサイトのリンクが付いています。本来は地域防災計画やハザードマップを調べるために使うのですが、今回は自治体公式サイトのリンクを利用しました。
特に意味はありませんが、思い付きで『鶴』で絞り込んで比較しました。
山形県鶴岡市(人口12万人規模)の『避難者名簿』は下図の通りです。
埼玉県鶴ヶ島市(人口7万人規模)の『避難者カード』は下図のとおりです。
この2都市でも大きく違うことがわかります。
鶴ヶ島市の方が『伝えておきたいこと』として個人名の横に自由記載できる欄があるので書きやすいかなと思いました。
家屋の被害は避難所として把握しておきたいようですが、これは避難所利用の基準ではないので『アンケート』として聞く程度であれば用紙を別紙にした方が良いのではないかと思いました。
2016年の熊本地震では前震と本震があり、前震では家屋被害がなかったものの避難、その後の本震では家屋に被害を受けたという人も居ますが、そういう人が現れれば入所届を探して書き換える必要があり、何千万円という財産を失った人に『あなたの財産が無くなったと書いて下さい』というのは酷だと思います。
ライフラインの途絶については、発災後7日以内に8割程度は復旧する事例が多いことから、ここに記載しても活用されることもなく終わりそうなので、別な方法を考えた方が良いかなと思っています。
その方法については、アイデアがあるので、これからブラッシュアップしてディテールを高めていこうと思います。
世帯の人数が鶴岡市が7人、鶴ヶ島市が8人でした。別途調査していた福山市は5人でした。2~3世帯同居も珍しくない都市と、核家族化が進む都会では枠数が異なるかもしれません。
福山市人口の約2倍の都市である東京都世田谷区の『避難者カード』を見てみると、福山市と同じく5人分の枠でした。
真意はわかりませんが大都会らしいのかなと思ったのが、障害や介護といったワードが無いが『妊娠中の家族がいる』『乳児がいる』というチェックボックスがあることです。
この妊婦や乳児は、実は重要なキーワードです。
一時的と恒久的
手帳が交付される程度の『障害者』という状態は、数か月や数年で変化することはなく、多くの人が交付以降の生涯を『障害者』として過ごします。
『介護』についても同様で、要介護度が変化しても、介護が不要になる程度まで健常者に近づくことはあまり多くありません。特に高齢者においては年齢による体力低下などもあるため、維持することも大変な中で回復や機能向上は稀なケースです。
『高齢』については、例えば後期高齢者医療制度の対象となる年齢を超えたら、もうそれ以上に若くなることはできないので、高齢者である事実は生涯変わりません。
では『妊婦』はどうかと言うと、『十月十日』(とつきとうか)と言われるように、妊婦である期間は1年未満です。産褥婦や周産期というくくりにしても大差はありません。いずれは妊婦という状態から変わります。
『乳児』『幼児』なども同様です。数年でその状態を脱する、一時的なステータスです。
妊婦や乳児には母子手帳が交付されるとしても、それが障害者手帳のように機能する訳ではありません。経過の記録にはなりますが、他の市民と変わる点は特にありません。
そして、妊婦も乳児も、健常者です。
妊婦と乳児に優しい地域防災計画
『地域防災計画』とは、自治体が策定する非常時対応の計画書です。
筆者はいくつもの地域防災計画を分析してきましたが、妊婦や乳児に優しい地域防災計画は出会うことが滅多にありません。
多くの地域防災計画が最初の数ページ目に『妊婦』という言葉が出て来ても、以降は出てこないことが多いです。
生活弱者のくくりとして高齢者、障害者、妊婦などと書かれたあとで『高齢者等』などにまとめられ、内容としては高齢者向けのものに寄っていく傾向があります。
高齢者は人口の3割程度、弁の立つ大人であり、高齢者歴も長い人が多いです。高齢者予備群も多いので、意見が通りやすい、保護の対象としやすい特徴があります。
障害者となると、住民の数パーセント、地域によってはもっと少ない数字になります。
さらに妊婦は少なく、全国を見ても人口の1%未満、地域によっては1桁の人数しかいない可能性があり、特別に計画する必要はなく個別対応でも良いと考えられていることもあります。
妊婦は1年未満に妊婦ではなくなるため、『私は妊婦です』という政治家も1年後には妊婦ではないですし、生涯で3回以上妊婦になる人も少ないので、妊婦である期間中を過ごせればそれで良いということになります。その期間に被災する可能性は相当に低いです。
ある自治体の職員が『妊婦は病人ではないし、保健所の管轄なので危機管理の対象ではない』と話していました。その職員は『妊婦よりも透析患者が大事』とも話していました。
ある瞬間を切り取った場合、透析患者より妊婦の方が何割か多いですが、人数ではなく当事者の声を聴く機会の多さも影響している可能性があると思いました。
何よりも『保健所』の仕事だから関係ないという考え方が縦割り感を伝える言葉だなと思いました。
入所届に必要な情報は?
入所届の目的や性質を整理する必要があります。
個人の識別が必要であるということであれば、氏名や生年月日以外の方法もあります。
マイナンバーを暗記している人が少ない日本ですが、番号で識別することも可能です。
避難所内で氏名を知っていることが重要ではなく、用意する食事の量を算段することなどが重要であると考えられます。
避難所はホテルと違って、利用者参加型の共同運営施設であることが本来の姿なので特技や専門などを伝えることは重要かもしれません。
『私は障害者なので何もできません』ということは無いと思います。障害の程度によっては出来る作業もあり、本人が望めば作業に参加してもらうことを阻むべきではないので『障害』『介護』などの保護側の情報収集より『私は○○が得意です』の方が避難所運営としては有意義な情報であるのかなと思います。
アレルギーについては我慢するものではないので、特別食が必要な人は別途申出をしてもらうようにし、入所届とは別管理にすると良いかなと思います。
性別については議論を要するところです。
生活エリアを分けるのかどうかということも関連してきます。
トイレなどを男性エリアと女性エリアに分けるという場合、入所届で性別を把握する必要はありません。
性別を自己申告した人に対し『あなたは男のはずだ』とか言ってしまう人が居た場合、トラブルになりかねません。生物学的な性別と、姓自認のどちらで申告するのか、戸籍が優先されるのか、そのような議論を避難所の受付で展開している場合ではないので、個人的には性別の申告は要らないのかなと思っています。
これについては解決策として『トイレは男・女・兼用』のどれを使いたいかといった投票を行っても良いかなと思います。その人数の割合で便室の数を割り振ったら良いかと思います。
このようなことを考えて、入所届に必要な項目を絞り込むと、以下のようになりました。
- 個人識別子(通番orマイナンバーor氏名)
- 年代(子どもは細分、大人は20歳区分程度)
- 住所概要(丁目まで、災害種別によっては不要)
- 持込品(自動車など協力要請の可能性がある物、医療機器など特別な配慮が必要になる可能性があるもの、ペットなど衛生上の問題などがあるもの)
- 特技等(協力要請の可能性)
避難所の運営方針を平時から検討し、項目を検討する必要があり、地域毎に内容が異なるなと思いました。
特にオフィス街などがある地域では、帰宅困難者も避難所を利用する可能性があり、地域住民でない人が利用しやすい環境が必要になると思います。この点を考えると住所を記載することで差別を受ける可能性もあるため、住所の必要性は要検討です。
特技のところは、何が必要になるかわからないので、何でも書いてもらったらよいと思っています。
避難所で縫製なんて関係ないと思っていたが、子供サイズの衣類が足りないので頼みたかった、ということもあるかもしれないので、どんなことでも申告してもらえると良いと思います。
項目数を絞ることで、安否確認システムでも管理できるようになるので、既存のプラットフォームでスマート化が可能になります。
とはいえ、情報の一元管理や、膨大な情報の中から必要な情報を引出すことができるようになるので、たくさんの情報を集める価値もあります。
安否確認システムでは収まらない情報収集の方法について、避難所入所管理システムを作ることも考えなければならないと思いました。
おわりに
今回は避難所の入所届を電子化することについて検討しました。
今回は AmpiTa で試験しましたが、他社様の安否確認システムではどのように動作するかわかりません。
今回の検討は入所者寄りというよりは、管理者寄りの考えで始めています。
手書きされた伝票をExcelか何かで一覧表にまとめ、毎日市役所に報告する市役所職員の姿を想像すると、申し訳ないなと思ったことが始まりです。
避難所に来る市役所職員は、その避難所とは縁もない、もしかすると市外在住で、家族も被災しているかもしれない中で、わざわざ避難所に仕事をしに来て下さっています。
市職員としては3度の食事、トイレなどの衛生管理、さまざまな仕事がある中での対応となるため、非常に多忙であると思います。
発災してからの対応は難しいので、平時に避難所入所届をスマート化するための検討を進めることは重要だと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。