★今日の課題★
地域防災計画を比較する
地域防災計画とは
地域防災計画とは、都道府県や市区町村が各々に策定する、地域(自治体)の防災に資する計画書です。
現在、ほぼすべての自治体が地域防災計画を策定しています。
比較サイト
地域防災計画の比較サイトというものは見当たりませんが、比較するための素材集めに使えるデータベースがあります。
『災害の芽を摘む』(saigai.me)の『地域防災計画 データベース 都道府県・市町村一覧』では、各自治体の地域防災計画にリンクしています。
降順・昇順
このデータベースにはソート機能が付いています。
今回のテーマは『比較』なので、自治体を比較するといえば人口くらいしか思いつきませんが、ソート機能で同程度の人口規模の自治体を選び出すことができます。
人口20万人前後
人口で昇順に並べてみると、人口20万人前後は下図のようになります。
人口20万人±5千人を選ぶと8都市が選抜されました。
- 東京都三鷹市(195,391人)
- 三重県鈴鹿市(195,670人)
- 広島県東広島市(196,608人)
- 兵庫県伊丹市(198,138人)
- 東京都小平市(198,739人)
- 千葉県八千代市(199,498人)
- 千葉県流山市(199,849人)
- 島根県松江市(203,616人)
都市の勢いとしては千葉県流山市がダントツに強力です。若い世代が移り住んでいることで有名な流山市は未来志向の発展的な計画を立てているのではないかと予想します。
一方で鈴鹿市、伊丹市、松江市は人口増加率が芳しくない状態なので、次回の国勢調査ではここに居ないかもしれない、と予想します。
キーワード比較
先ほどリストした自治体の地域防災計画をダウンロードして、キーワード検索してみました。
- 死体(または遺体)
- 負傷者(または傷病者)
- 救急
- 救命
- 初動医療
- 災害医療
まず、全体の傾向として自治体の業務範疇であるワードについては何度も使われている、手厚い計画があることがわかります。
遺体を安置し、遺族に引き渡すのは自治体の業務です。この死体や遺体というワードは頻出しました。
平時から救急車は自治体が運行していますが、その流れから災害により発生した負傷者の救急搬送については地域防災計画の中によく出てきました。
一方で、救急搬送後の診療についてはほとんど触れられていません。
医療はビジネス?
自治体は、税金で成り立つ公共機関です。
その公平性が保たれるべき組織である事は間違いありません。
ゆえに、民業に加担することを許さないという風潮があるのは仕方ないと思います。
『医療』の多くは『医業』であり、患者が顧客、診療がサービス、対価は患者の窓口負担と保険から得ます。いわゆる受益者負担の一種です。
民業であるから、地域防災計画では自治体が関与しないというスタイルは、市民のためになるのでしょうか。
発災後、救急車が正常に運行されたとしても、医療機関が受入できなければ患者と救急車は難民化します。
市内に入院ベッド数が400床の病院があったとして、医師や看護師が相応に居るから受け入れられるだろうと思うと、そうでもありません。
ビジネスがある
医療機関は、生業として医療サービスを提供しているため、発災時にも既に入院患者は居ます。
外来を中止して患者を帰したとしても、入院患者の診療は継続するため医師や看護師ら人的リソースに余裕はありません。
医療はビジネスであると割り切ってしまうと、合理化を進めざるを得ないので、余剰人員を置くことはできません。
過剰な備蓄をすることもできません。
医療への配慮
医療機関側には『受け入れたい』という意思があっても、無理なものは無理です。
平時に、1日あたり10人程度の救急患者しか受け入れていない医療機関の救急外来に、1時間あたり10人の来院があるだけでも許容値を超えそうですが、もう1桁多い患者が来れば、トリアージをするだけでも相当な時間になります。
過去の災害では、救急車の台数を大きく上回る傷病者が発生し、住民が搬送した事例がいくつもあります。
その際、医療機関側の受入可否に関わらず、一方的に患者が運ばれてくるので、診療の順番待ちは相当な時間になります。
患者が殺到した場合、医療機関は出来るだけのことを精一杯するだけなので、診療の手が回らなかった患者についてはあきらめざるを得ません。
そうなったときに不利益を被るのは市民です。
市民の怒りの矛先が、なぜか医療機関に向いてしまうことがあるのですが、計画段階では民業である、発災後は公共機関であるかのような扱いになることについては、配慮が必要であると考えます。
自宅の….
では、自宅がある自治体の地域防災計画はどうなっているでしょうか。ぜひ閲覧してみてください。
同時に、同規模の自治体や、同様の立地の自治体の地域防災計画も比較してみてください。
【参考】災害の芽を摘む(saigai.me): 地域防災計画データベース
先述の8都市の比較でも、例えば『死体・遺体』が150回以上の頻出ワードである三鷹市は、他のワードでも概ね他の自治体より多い頻度なので、もしかすると医療に配慮した計画を立てているのではないか、と考えることができます。
三鷹市には公立病院は無いようですが、杏林大学医学部附属病院があります。生活圏には武蔵野赤十字病院もあります。
小平市は、三鷹駅から2kmほどの距離にあり、地域としては小平と三鷹は似ているかなと思われますが、地域防災計画にも共通点が見られます。
根拠データに注目
地域防災計画を熟読する機会があれば、ぜひ根拠データにも注目してください。
筆者の住まう地域では、残念ながら阪神淡路大震災のデータを未だに使っています。
阪神淡路大震災の被災地でもあるため仕方ない部分もありますが、負傷者数などは想定外のことになり得ます。
古いデータの場合、人口構造の違いが反映されていません。
阪神淡路大震災が起きた1995年の高齢化率は10%程度、団塊世代がバリバリで労働の中核を担い、団塊ジュニア世代も20代で活発な時期でした。
ゆえに、自力で瓦礫を除去できる人も多かったですし、避難所に行かずに地域での復旧活動に参加していた人も多いです。
ところが、30年の歳月により団塊世代は高齢者となり、高齢化率は30%に上昇しました。おそらく、避難所利用者は増え、復旧作業を自力で出来ない人も増え、災害の影響が長期的に残る可能性があります。
もし、避難所の収容者を1,000人と想定している所に3,000人の避難者が来たらどうなるでしょうか。
リスクマネジメントとは、こうした予見できる危機を回避するはずですが、ある自治体の危機管理室では『市民が口出しするところではない』という室長が居ました。
プロが考えているから、素人である市民が口出しするなというのであれば良い結果が得られるかもしれませんが、30年前の成功体験を今でも引きずっているのであれば、不利益を被るのは口出しできない市民です。
卒業論文・卒業研究
地域防災計画の比較は卒業研究として扱うことも良いのではないかと思います。
今回のデータは8都市でしたが、もっと都市数を増やしても良いですし、人口密度や納税額など違った切り口から見ていくことも良いと思います。
筆者が調査したいと思っているのが、年齢構成による違いと、市長や市議の在任期間による違いです。
前者は流山市のように若いパパ・ママが暮らしやすい街づくりをしている所では何が起きているのか気になるためです。
後者は、在任期間が長いと新しい事に目が行かない可能性があるのではという心配からです。ある県の知事が5期目に高級車『センチュリー』を公用車にして話題になっていましたが、住民志向ではなくなる可能性を調査すると、結果として住民に気づきを与えられたり、良い仕事をしている議員や職員を褒めたたえる機会になるのではないかと思います。
筆者は人口12万人前後の都市も調査しましたが、20万人規模の都市との差があることに気づきました。
- 大阪府松原市(117,641人)
- 愛知県半田市(117,884人)
- 宮崎県延岡市(118,394人)
- 大阪府大東市(119,367人)
- 大阪府門真市(119,764人)
- 奈良県橿原市(120,922人)
- 北海道江別市(121,056人)
- 山形県鶴岡市(122,347人)
もっと深掘りしてみると、新たな発見があると思いますので、ぜひ卒業研究のテーマに選んで頂ければと思います。
おわりに
今回は地域防災計画について調査してみました。
比較サイトのようなものがないので、『災害の芽を摘む』のウエブサイトから『地域防災計画 データベース』を参照して比較してみましたが、色々と課題が潜在していそうな、研究材料としてはポテンシャルの高そうなネタであることがわかりました。
自治体職員や議員らは、批判の的になるときには注目されますが、普段の良い仕事の積み重ねについては称賛される機会は皆無に近いと思います。
もし、地域防災計画や訓練などが、他地域に比して優れていることに気づくことがあれば、それについて市民が称賛してみても良いのかなと思いました。
残念ながら、自宅のある地域があまり良くない計画を立てていると知ってしまった場合は、仕方が無いので自助・自衛に取り組む必要があります。
知らずに想定外より、知った上で備えることができたということを利益と捉えてみようかと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。